アンティークの重鎮が語る「時計との出会い」

 表参道ヒルズや、有名ブランドのブティックの並ぶ、表参道。しかし華やかなこの通りから少し路地に入るだけで、表通りとはうってかわった静かな住宅街になる。この、住宅街の中に、アンティーク時計の専門店、「Dazzling - shiggy collection -」がある。
  このショップのセレクトは全て、ROLEXアンティークのコレクターであり、アンティーク時計の一流ディーラーでもある、日本アンティーク時計界の重鎮、有竹重治氏によるもの。有竹氏はロンドンから日本に向けて、アンティーク時計の魅力を伝えた先駆け的存在であり、彼のアンティーク時計ディーラーとしての功績は計り知れない。
  そんな有竹氏とアンティーク時計との出会いと歩みについて、語っていただいた。
  有竹重治 -Shigeharu Aritake-
1945年  三重県四日市市生まれ 日本大学卒業後、1971年に空手指導員として渡英。その後ケガが原因で空手指導の道を断念。一転して、アンティーク雑貨などを取り扱うビジネスにたずさわったことから、アンティーク時計の道に入る。1977年にロンドン・チェルシーの、歴史あるアンティークマーケット、アンティキュアリアスの一角に店を構える。個人のアンティークロレックスのコレクションは、世界でも屈指。アンティークディーラーとして30余年の集大成として、3年前、表参道に『Dazzling -SHIGGY COLLECTION-』をオープン。アンティークウオッチを通じて、『モノと出会う感動』を味わえるショップとして、注目のアイテムを展開している。
アンティーク時計に導かれた運命
大学卒業後、空手の指導員として渡英しましたが、6年ぐらいしてから、目を切ってしまったんです。涙腺を23針縫うことになってね。そのまま指導員を続けていたんですが、悪化して、空手をとるか、目をとるか、という感じになりまして。それで指導員をやめて日本に一度戻ったんですが、その後再びロンドンに戻ってね。
でも、当時はアンティークの『ア』の字も知らなくて。私はタバコを吸うので、マーケットでアンティークのライターの面白いものは時々見ていましたが、時計は全く見てませんでした。

一人のイタリア人との出会いで私の人生が動いたというか。偶然手に入れた、オークションのカタログ、それを持ってオークション会場に出かけたんです。
 
有竹さんの貴重なコレクションの集大成『ROLEX SCENE』
 
日曜日にブリックレインっていうマーケットがあるんですが、朝の2時からスタートする。それで、冬の一番寒い時期に出かけたんですが、こう道ばたに白い汚いバンが止まってたんですよ。その助手席に子どもが震えて座ってたの。それを見て『可哀想になあ』って思ってね。するとそこにその子のお父さんが帰って来て、自分の着てるジャンパーを脱いで子どもに着せて、『もうちょっと待ってくれよー』なんて言ってるんだけど、子どもは『お父さん寒いよ』って震えてるわけ。

それを見て可哀想に、オレはこんな生き方はしたくない、頑張るんだって自分に言い聞かせたりして。そこで、この親父さん何を売ってるのかな、と気になって見てみると、汚いキャンドルスタンドとか、あと、靴べらとか、まあ、がらくたを扱っていて。それをまとめて全部買ってあげたんですよ。それで、感謝されたというかなんと言うか、私もそのマーケットに毎週行くので友達になって。で、それでその時にオークションのカタログをもらったんです。
そのオークションって言うのが、1週間後の、世界的にも有名な「サザビーズ」のオークションの、懐中時計を中心のカタログだったんですけども、それに行ったんです。まあ、驚きましたよねー。紳士と淑女が集まる場所で、私が行くような場所ではない、で、まあ、こう恐々中に入ったわけですね。するとその時1人のイタリア人、ジャコモって言うんですが、それが淡々とですね、高価な時計を買ってる姿を見たんですよ。まあ、すごい世界だな、と。それでオークションが終わって、夢うつつな感じで自分の店に戻りましてね、アンティークの朝市では味わえないスゴいものを見ましたから。
 
ダズリング店内。見応えのあるアンティーク時計が常時並んでいる。
それで、こう、ぼおっとカタログを見てたら、目の前を人が通った。それが、サザビーズで淡々と堂々と時計を落としていた、あのジャコモだったんです。僕は大声で声をかけて。ビックリされて、一歩後ずさりされちゃったんだけど。(笑)「あんたサザビーズで見たよー!スゴい人だねー!」握手してくれ、って言って握手してもらって。で、それから2時間ぐらい、熱く語って。時計の良さ、を教えてくれたんですよ。で、コンディションは分からないわ、時代は分からないわ、あとそれから値段的なものも分からないわ、まあ、そんなんじゃ無理だよ、ってなもんですよ。で、高いしお金もない。すると、そのジャコモがポケットから小切手を取り出してね、で、それにサインしてくれたわけですよ。で、『金額をお前書け』って。会ってまだ2時間しか経ってないんですよ。これが、アンティーク時計を扱い始めたきっかけですね。
Dazzling - SHIGGY COLLECTION -
 
〒150-0001 渋谷区神宮前4-25-10
TEL:03-3475-6677
営業時間11:00〜19:00
定休日 水曜日
 
 
『ROLEX SCENE 1913~1997』
有竹氏のROLEXコレクションの中から、厳選した400本を掲載。
  1913年から1997年までのモデルを広くカバーした、世界屈指のROLEXコレクション本である。それぞれの時計に、細かいコメントがつけられていて、手に入れたエピソードなども興味深い。右の写真は有竹氏にサインを入れていただいたもの。(ワールドフォトプレス発行)
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