アンティークの重鎮が語る「時計との出会い」

最初は何もわからないところから始めた、アンティーク時計の取り扱い。しかし有竹さんは、その手腕から、世界的なアンティーク時計のブームの一端を担い、特に 日本ではブームの火付け役として貢献することに。
日本のアンティーク時計ブーム、始まる
ジャコモに、「お前は何を売ってるんだ」と言われて、ショーケースの中から、万年筆を何本か取り出して見せたら、彼は、「おい、これはモンブランじゃないか、パーカーじゃないか」と。じゃあ次ライター見せてみると、その中にもブランドものがあって、時計にもブランドがある、『ROLEX』、これをやりなさい、と。で、翌日から半信半疑でマーケットを回って、その中にもポツンポツンと商材はあったんですが、分からないわけ。時代も分からなければどれぐらいで買っていいのかも。でも、まあ試しに1個買ってみよう、と思って買ったのがロレックスのロイヤルという1930年代のモデルで。

それで、店に帰ってルーペでコンディション見たり、中開けて音聞いてみたりしても、さっぱり分からない。そして、当時すでに日本からアンティークのディーラーが来てたんですが、腕時計を商材に扱う人は一人もいない。最初、こう時計を見てて、その、『こんなの売れるのかな』って思っているところに、日本人に『こんな中古なんて』って言われて、自信を失くしてたんです。



(上)ROLEX エクスプローラー Ref.5500
ミラーダイヤル、ゴールドライティング 1965年製
¥745,500(税込)
(下)ROLEX Ref.2318
フラットベゼルケース スナップバック 1934年製
¥483,000(税込)


懐中時計を扱われる方はいたんだけど、こんな古い腕時計は売れないよ、っていうのが、懐中時計を扱う人の意見。でも、そういうディーラーの人も、『有竹さんが勧めてくれるなら』、って自分ではめたりするために買ってくれて。その時初めて仕入れた時計が35ポンド。日本円で、当時1ポンド560円ぐらいかな、だからそれを48ポンドで、その時西洋アンティークの人形を扱っている方に1番最初に買って頂いてたんですけど。だから、そういうところから、徐々に日本にもアンティークの腕時計が浸透して行って。ジャコモの意見でしたけど、イタリアではすでにブームだったんで、「必ず日本だけじゃなくて世界中でブームがくるから、お前やれよ。協力は惜しまない」って言われて、色んなことをアドバイスしてくれたんですね。

ジャコモは本当に熱っぽく語ってくれて、ライターにしてもダンヒルとか、万年筆にしろ、ブランドものが売れてる。時計でもROLEXというブランドは必ず売れる、と。その彼の言葉のおかげで、自分がアンティークの世界で生きていくことを決意しましたね。
それで、5年ぐらい経った時に、ワールドフォトプレスの今井さんという方がロンドンに来て、この今井さんはミリタリー時計のコレクターだったんです。今井さんはベトナム戦争の写真を撮られたりされてた方なんで、そういうミリタリーものが好きなんですね。

水曜にロンドンでカムデンパッセージというマーケットが立つんですが、そこの1つのストアに、80個ぐらいのミリタリーが置いてあったのね。で、「これ買うよ」って今井さんおっしゃってたんだけど、1時間2時間では売れないから、まあ後で買いましょうよってことで、食事して戻って来たら10個も残ってない。えらく怒られましてね。今だにお会いしたらその時のこと、言われますよ(笑)私が時計を始めてから10年ほどで、日本人のアンティーク時計に対する認識も変わって来たみたいで。それから日本で今井さんが時計に関する本を出されて、そこから火がついてブームになった。
日本でアンティーク時計の最初のブームが来たのは20年ぐらい前ですかね。私が充分アンティーク時計を扱って、供給できる状況にあった時、日本人の認識が追いついて来た。でも、日本サイドにブームをつくるというのは、大変な努力が必要だったみたいです。その間にイタリア人、ドイツ人、特にイタリア人はロンジンのクロノグラフやROLEXのスポーツモデル、ドイツ人はIWCが好きで、日本以外ではアンティーク時計のブームの兆しはありました。

でももし、日本の雑誌社が日本で本を出さなければ、そのブームは10年は遅かったかな、と思いますね。日本のアンティーク市場の様相は全然違ったものになったでしょうね。
Dazzling - SHIGGY COLLECTION -
 
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営業時間11:00〜19:00
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『ROLEX SCENE 1913~1997』
有竹氏のROLEXコレクションの中から、厳選した400本を掲載。
1913年から1997年までのモデルを広くカバーした、世界屈指のROLEXコレクション本である。それぞれの時計に、細かいコメントがつけられていて、手に入れたエピソードなども興味深い。右の写真は有竹氏にサインを入れていただいたもの。(ワールドフォトプレス発行)
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